レビュー:スマホを落としただけなのに

映画の予告編を見て興味を持ち、原作を読んでみました。そして、ITリテラシーの向上に非常に良さそうだったので、次のようなツイートをしました。

今回は、読了したため、レビューしていきましょう。

あらすじ

”男”のポケットで、聞き慣れない着信音がする。取りだしてみると、自分のものではないスマホ。どうやら、昨日タクシーで間違えて拾った誰かのもののようだ。待ち受け画像には、美しい女性の写真が表示されている。電話に出てみると女性の声。スマホの持ち主の恋人のようで待ち受け画像もその女性のようだ。本人に返すので、渡して欲しいとお願いされる。しかしよく見れば、「自分好みの」黒髪の美人だ。男は、その女性、稲葉麻美に「興味」を持つ。

同じ頃、山中で死後1年以上だった死体が発見された。その被害者は、黒髪の女性であった。

元ラジオディレクターの作者による、エンターテイメント小説

本作は「このミステリーがすごい!」の「隠し球賞」である。つまり、実際の賞は受賞していない。また作者の「志駕 晃」氏は、もともとラジオディレクターで、小説はこれが4作目である。それを考慮して読むことをおすすめする。つまり、小説としては結構荒削りだし、ストーリーも非常に良く練り込まれている・・というわけではない。

とはいえ、テーマは非常に面白く、現代ならではのさまざまな問題を投げかける良作。特に、ITやネットリテラシーに対する知識をしっかり持っているようで、セキュリティリスクを正しく理解している。

本作は、「スマホを落としただけなのに」というタイトルの通り、スマホを落とすところからストーリーがスタートし、それによって最終的には命の危険にさらされるほどの事件に巻き込まれていく。しかし、その問題点は「落とした」事ではなく、主に次のような点が問題となっている。

  • パスワードを安易なものに設定した
  • すぐにスマホを止めるなどの対処をせず、またバックアップも取らずに他人に預けた
  • 警察を介さずに落とし物を直接処理しようとした

こうして、まんまと「男」の餌食となり、個人情報やソーシャル情報を盗み出されてしまう。そして、そこから次のようなステージに発展していく。

  • ソーシャル上のなりすまし
  • ソーシャルののっとり

便利になりすぎた世の中で、スマートフォンに安易なパスワードを設定し、それを落とすという事の危険性を理解するには、十分ホラーな内容となっている。

若干中途半端な後半ストーリー

本作は、前半はぐいぐいと引き込まれていく。それこそ「スマホを落としただけ」なのに、そこからあれよあれよと個人情報が特定されていく様は恐ろしさを覚える。本作は、「男」のストーリーである「A」と、稲葉麻美視点の「B」というストーリーが同時並行で進む。そして、中盤から「黒髪女性の連続殺人事件」を追う刑事らの「C」というストーリーが加わる。

しかし、この Cのストーリーが、なかなか進展することもなく、A/Bの展開に深みを与えるわけではなく、若干謎のパートとなっている。
全体の進行として必要なパートではあるものの、A/Bの進行に絡むようなストーリーを展開させるか、それができないようであればもっとさらっと流しても良かったのではないかと思う。

前半に比べると、中盤以降は若干中だるみ感が強く、もうひとネタ隠しネタが欲しかったかなと思う。特にクライマックスに絡む伏線をもう少し絡めても良かったかも知れない。

一読の価値はある良作

冒頭の通り、本作がベテランの作者の小説であれば、もう少し酷評だったかも知れないが、若干4作目の作品で映画化され、興収2億という記録はさすがと言える。元ラジオディレクターという経歴もあり、タイトルの付け方や「掴み」が非常にうまい。また、ネットの知識がそれなりにしっかりして、ネット犯罪の怖さを手軽に知ることができる良作だ。

学生さんや、ITにあまり詳しくない、スマホのパスワードも誕生日だし、バックアップも取ってないみたいな方は、是非ご一読頂くと良いだろう。続編もあるそうなので、是非読んでみようと思う。映画も配信されたら鑑賞します。

この記事を書いた人

たにぐち まこと

『よくわかるPHPの教科書』や『マンガでマスター プログラミング教室』の著者。 ともすた合同会社で、プログラミング教育やこども向けの講座などを Udemyや YouTubeで展開しています。